原子核実験

研究室 研究室HP 研究者紹介
(理学部HP)
研究テーマ
早野研 home01-02 person 陽子質量起源の研究/反物質の研究
櫻井研 home01-02 person 不安定原子核の構造と反応
Wimmer 研 home01-02 person  

 

 

1. 原子核はフェムトの世界

原子はおよそ直径0.1ナノメートル(100億分の1m)程度という微小なものですが、その中心には直径が数フェムトメートル(1000兆分の1m)という更に微小な原子核があります。われわれは、この原子核の物理的性質を、様々な実験的な手段を駆使して研究しています。

陽子や中性子が初期宇宙でどのように生じたか、多様な元素がどのように作られたか、などの根源的な謎を解くとともに、物質質量の起源の理解、物理定数の決定、量子力学の検証など、基礎物理学の重要課題にも取り組んでいます。

1.1 原子核は何から出来ているのか

陽子と中性子 原子核中には電荷がプラスの陽子と電荷を持たない中性子があります。クーロン力だけでは原子核はバラバラになってしまうので、クーロン力よりも強い引力がこれらの粒子をまとめて原子核を作っているはずです。この力のことを強い力と呼び、その担い手として湯川秀樹先生が予言されたのが中間子です。
強い力(核力)を解明し、原子核の性質、すなわち質量・形状・安定性などを理解するのは原子核物理学の重要な課題です。これら原子核の諸性質は宇宙での元素合成過程の理解する上でも不可欠です。
クォークとグルーオン 一方、陽子や中性子(及び中間子)を更に細かく見ると、クォークと呼ばれる素粒子と、クォーク同士を結びつけるグルーオンと呼ばれる素粒子で出来ており、それらは「量子色力学」と呼ばれる法則に従うと考えられています。
クォーク・グルーオンに基づき、陽子・中性子の性質などを解明するのが、原子核物理学のもう一つの重要な課題となっています。

 

1.2 原子核を熱する・圧縮する

温度や圧力を変化させ、物質の「相」(気相・液相・固相)がどのように変化するかを調べることは、物質研究の基本です。理論的には、原子核を熱したり圧縮したりすると、陽子や中性子の中のクォークとグルーオンが「溶けた」状態、「クォーク・グルーオン・プラズマ」という新しい物質相が生じると予言されています(図1)。ビッグバン直後の宇宙は非常に高温のクォーク・グルーオン・プラズマで、宇宙が冷える過程で陽子と中性子が生じたと考えられているのです。

これを実験的に検証することは最近まで困難でしたが、原子核同士を非常に高エネルギーで衝突させる加速器の登場で、初期宇宙の片鱗を実験室内で調べることが可能になりました。

QGP
図1:原子核物質の相図。高温・高密度ではクォークとグルーオンが飛び交い、低温・低密度になるとクォークが3個ずつ入った陽子と中性子が出現することを模式的に示しています。

 

1.3 陽子質量の謎

図1の模式図にも示したように、陽子にはクォーク3個が閉じ込められていますが、 クォーク3個分の質量を足しても、陽子の質量の数%にもなりません。陽子がどのようにして「原料」よりもはるかに大きな質量を獲得するのかは、未だに十分に理解されていない謎ですが、最近ようやく陽子質量の謎を実験的に解明する糸口が得られるようになりました。

2. 研究手段

「フェムトの世界」は直接見たり触ったりすることが出来ないので、この世界の様々な謎を解明するには、次のような特別な実験手段や装置が必要です:

叩いてみる 原子核を様々な「ハンマー」で叩いてみて、原子核の応答(たとえばどのくらい固いかなど)を調べることは、強い力(核力)や原子核の構造を解明する有力な手段です。加速器で最近生成が可能になった不安定原子核のビームを利用しています。
私たちは理化学研究所に完成した、世界最高性能を誇る次世代不安定核ビーム生成施設「RIビームファクトリー」で研究を推進しています。
熱する 原子核同士を非常に高いエネルギーで正面衝突させると、図1に示すように原子核が熱せられ、クォーク・グルーオン・プラズマが生じると考えられます。プラズマ中で陽子や中間子が「溶ける」様子を実験で観測し、初期宇宙に存在したはずの相転移の解明を進めています。
現在、この研究が可能なのは米国ブルックヘブン研究所の高エネルギー重イオン衝突加速器RHICのみです。私たちはそこにPHENIXという大型の測定器を国際協力で建設し、実験をしてきました。
プローブを入れてみる 加速器を用いて原子核の中に「不純物」として中間子などを入れます。これをプローブとして原子核の性質を調べたり、逆に原子核がプローブに変化を及ぼす様子(たとえば質量が変化するなど)を観測することにより、上に述べた陽子質量の起源を探ることが可能になりました。こちらの記者発表資料もご覧下さい。
私たちはこれまでつくばの高エネルギー研究所、ドイツの重イオン研究所などでこの研究を進めてきました。東海村に完成した次世代高エネルギー陽子加速器J-PARCや理化学研究所のRIビームファクトリーにおいて研究を発展させています。
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