宇宙理論
美しい夜空の背後では、様々なスケールの天文・天体現象が絶え間なく続いている。それらを普遍な物理法則によって理解すること、そして、そこから基礎物理理論についての知見を深めることが、私たちの研究の目指すところである。具体的な研究は、以下で紹介する「初期宇宙・相対論」、「観測的宇宙論」、「天体核物理」の三つのテーマを軸に行なっている(図1参照)。
初期宇宙・相対論
膨張している宇宙を過去にさかのぼると、非常に小さくなるにしたがって、超高温・高密度の状態になるはずである。そこでは、星・銀河・銀河団・大規模構造等の宇宙の巨視的な構造はもちろん、分子・原子・原子核等の微視的構造さえも、現在の形では存在できない。この様な極限的状態の宇宙がどの様にして生まれ、そしてどうやって豊かな構造をもつ現在の宇宙にまで成長したのだろうか?また、多くの統一理論は5以上の時空次元を予言または仮定するが、そこからどうやって、現在の4次元宇宙が生じたのだろうか?これらの素朴だが重要な疑問に、一般相対性理論・素粒子物理・弦理論等を基礎にして挑むのが、本テーマである。
生まれて間もない宇宙は、インフレーションによって急激に引き延ばされて熱い火の玉宇宙に転じたと考えられている。インフレーションは、理論として美しいだけでなく、宇宙背景輻射の観測結果を正しく予言する為、標準宇宙論の一大要素として、多くの研究者によって支持されている。しかし、インフレーションを起こす源と言われる真空のエネルギーが何によるものなのかは、実際のところ、未だに分かっていない。これ以外にも初期宇宙には未解決の問題が多く、私たちは、有望な素粒子模型や弦理論の模型を用いて取り組んでいる。量子重力を含む統一理論の候補である超弦理論が、その全貌を少しずつ明らかにしようとしている今、初期宇宙の研究は益々その重要性を増していると言えよう。
観測的宇宙論
宇宙には、多数の銀河・銀河団などの天体が集まってできたきわめて大きな空間構造物が存在している。こうした空間構造物を「宇宙大規模構造」と呼ぶが、近年、スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)に代表される系統的な銀河サーベイ観測が行われるようになり、宇宙大規模構造の詳細な3次元構造が明らかになってきた。大規模構造の成り立ちは、その巨大さゆえ、宇宙の膨張と進化と密接な関係があると考えられており、大規模構造の3次元地図を統計的に解析することで、宇宙の物質組成、はたまた、ダークエネルギーの存在を探求することが可能となる。
このように、観測を通じて宇宙の成り立ち・進化を探る学問が「観測的宇宙論」である。観測的宇宙論の主要な研究テーマは、宇宙の進化をつかさどる基本的パラメータを決定し、宇宙の天体分布の起源と進化を明らかにしていくことである。そのため、大規模構造の観測に限らず、遠方の超新星爆発、宇宙マイクロ波背景放射、重力レンズや銀河団分布の統計など、多波長にわたるさまざまな観測を駆使して、理論をベースに宇宙の成り立ちを解明するアプローチが取られている。
現在、本研究室で行われている研究は、宇宙大規模構造の観測に基づくダークエネルギー探査、ミッシングバリオンの起源と観測可能性、SDSSを用いた銀河・クェーサーのクラスタリングの起源解明、宇宙マイクロ波背景放射の次世代偏光観測に基づく重力波の検出可能性、などである。また本研究室では、既存の枠にとらわれない幅広い研究を目指して、 高精度観測による太陽系外惑星探査とその観測手法に関わる理論的研究も進めており、次世代の宇宙論の主要テーマたる研究を模索している。
天体核物理
太陽の8倍以上重い星は進化の最終段階で超新星爆発を起こし、光すら脱出できないブラックホールや星自体が中性子程の密度となる中性子星を残す。1987年、大マゼラン星雲中に起こった超新星1987Aからのニュートリ ノバーストが神岡鉱山跡の観測装置で観測された。この観測で小柴名誉教授はノーベル賞を授賞し、ニュートリノ天文学の始まりを告げた。この超新星爆発過程の解明にはまだまだ謎が多く、星の進化論・ 高密度物質の状態方程式・一般相対論・エネルギー輸送・プラズマ流体力学など、高度な物理学の理論・手法を駆使する必要がある。
我々は、星の自転や磁場がどのように爆発機構に関わるのかという超新星爆発全体の研究はもちろん、星の中で中性子過剰原子核がどのように原子核パスタと呼ばれる核子物質やクォーク物質に相転位を起こすかなど、基礎過程に注目した研究も行っている。 また我々人体を構成するのに重要な重元素合成、爆発に伴って放出されるニュートリノ、時空のさざ波である重力波など、超新星爆発がどのように観測されるのか予想も行なっている。超新星爆発の研究はスバル、スザク、swift、スーパーカミオカンデ、LIGOなど最新観測機器により次々と新しい発見が期待され、発展目覚しい分野である。