素粒子実験

研究室研究者紹介研究テーマ
横山-中島研究室横山 将志 教授
中島 康博 准教授
高エネルギー加速器を持った素粒子物理の実験的研究
寄田研究室寄田 浩平 教授高エネルギー加速器を持った素粒子物理の実験的研究

素粒子物理学・高エネルギー物理学とは

 素粒子物理学・高エネルギー物理学は、この自然・宇宙を構成する最も基本的な要素とその間に働く力を探求する学問です。
 私たちの体や星、目に見えるすべての物質を細かく砕いていくと、分子、原子、原子核、そして最後にはこれ以上分割できない「素粒子」に辿り着きます。素粒子物理学は、この「物質の最小単位」とそれらの間に働く「相互作用(力)」の性質を明らかにし、この宇宙の起源を解明することを目的とする、言わば最も基本的な階層を扱う学問です。

(出典:KEK)

これまでの人類の絶え間ない努力の結果、現在、素粒子の振る舞いは「標準模型」(Standard Model)という理論枠組みで驚くべき精度で説明されています。標準模型には以下の17種類の素粒子が含まれており、物質の構成要素とその間にはたらく電磁力・弱い力・強い力という3つの基本相互作用を記述することに成功しています。

  • フェルミオン(物質の成分):物質を作る粒子。クォーク(陽子や中性子を構成)とレプトン(電子やニュートリノ)の計12種類が存在します。
  • ゲージボソン(力を媒介する粒子):粒子間に力を伝える粒子。光子(電磁気力)、グルーオン(強い力)、W/Zボソン(弱い力)があります。
  • ヒッグス粒子:2012年に発見された、他の粒子に「質量」を与える特別な粒子です。

(出典:KEK(改編))

 このような極微の世界を観察するには、波長の短い「光(波)」を当てる必要があります。量子力学の基本式 E = hν = hc/λ が示す通り、短い波長(λ)を実現するには、非常に高いエネルギー(E)が必要です。また、重い粒子(ヒッグス粒子など)を生成するには、アインシュタインのE = mc2 に基づき、巨大なエネルギーを一点に集中させる必要があります。このため、巨大な加速器を用いて粒子を光速近くまで加速し、衝突実験を行うのがこの分野の主要な研究手法です。一方で、そのような巨大な加速器を使わずに、宇宙線や量子効果を利用して高エネルギーの世界へアプローチする手法もあります。

標準模型を超えて:未解決の謎と次世代の物理

 標準模型は非常に強力ですが、完成された理論ではありません。以下のような謎は説明できていないのです。

  • 力の統一、階層性の謎:
    電弱統一のように電磁気力と弱い相互作用が統一された事実を出発点とし、さらに強い相互作用との統一、そして最終的には重力まで含めた力の統一の謎。また、電弱スケールとプランクスケールとの間に存在する極端なエネルギースケールの差をどのように自然に説明するかという問題
  • 反物質の消失の謎:
    宇宙誕生時には物質と同量存在したはずの反物質が現在ほとんど見られない理由、すなわち物質がわずかに多く残った非対称性の起源の問題
  • ニュートリノ振動の謎:
    標準模型ではニュートリノは質量を持たないとされていたが、ニュートリノ振動の観測により質量を持つことが明らかになり、その起源や性質をどのように理論的に説明するかが未解決の問題
  • ダークマターの謎:
    宇宙観測から明らかになった、宇宙の物質の85%を占める標準模型の粒子では説明できない未知の物質の正体

 これらの謎を解くため、超対称性理論(SUSY)や余剰次元、大統一理論(GUT)といった、標準模型を超える新しい物理(Beyond the Standard Model)の研究が進んでいます。地上での加速器実験に加え、地下深くでのニュートリノ・宇宙線観測や、宇宙観測を通じたアプローチが組み合わさり、ビッグバン直後の状態を再現・解明しようとする試みが続いています。
 物理学専攻の素粒子実験研究室が行っている実験をいくつか紹介します。

LHC(ATLAS)実験

スイス・ジュネーブにあるCERN(欧州原子核研究機構)において、周長27 kmの巨大円型シンクロトロン(LHC : Large Hadron Collider)で加速した陽子を世界最高エネルギーで衝突させ、極限下で起こる現象を調べます。ヒッグス粒子の生成率や崩壊過程、質量・結合定数を極めて高い精度で測定することで、自然界を記述する理論の土台である標準模型を、実験的に限界まで検証します。さらに、標準模型では説明できない反応のずれや異常を手がかりに、暗黒物質の正体や余剰次元の存在につながる未知の粒子の探索に挑みます。素粒子物理の「次の理論」を切り拓くと期待される高輝度LHC(HL-LHC)実験に向けて、その最前線で活躍するための研究と準備も進めています。

詳しくは、https://atlas.kek.jp/index.html もご覧ください

T2Kニュートリノ振動実験・スーパーカミオカンデ実験

茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCは、世界最高強度のニュートリノビームを生成し、約300 km離れた岐阜県神岡の地下1000 mに設置された50キロトン級水チェレンコフ検出器であるスーパーカミオカンデでその到来を捉えます。生成時と検出時のニュートリノの性質を比較することで、ニュートリノが飛行中に種類を変える「ニュートリノ振動」を精密に測定し、その未知の性質に迫ります。特に、ニュートリノの質量の起源やCP対称性の破れといった、宇宙が物質に満ちている理由に関わる根本問題の解明を目指しています。また、J-PARCに設置された前置検出器のアップグレードを進めることで、ニュートリノと物質の反応過程の理解を飛躍的に高め、次世代の高精度ニュートリノ実験に向けた基盤を築いています。

さらに、スーパーカミオカンデは、2020年から2022年にかけてガドリニウムを水中に溶解し、中性子検出効率を飛躍的に高めた観測を開始しました。とりわけ、過去の宇宙の歴史の中で生成され、現在の宇宙に蓄積している「超新星背景ニュートリノ」を世界で初めて観測し、宇宙の進化の歴史を明らかにすることを目指しています。

詳しくは、https://t2k-experiment.org/ja/https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/ もご覧ください。

ハイパーカミオカンデ実験

J-PARCにおける加速器ニュートリノビームのさらなる高度化と、スーパーカミオカンデの約8倍の有効体積を持つ次世代の巨大水チェレンコフ検出器(HK : Hyper-Kamiokande)を組み合わせることで、ニュートリノ振動をこれまでにない精度で測定します。これにより、ニュートリノと反ニュートリノのふるまいの違いを詳しく調べ、宇宙から反物質がほとんど姿を消した謎に真正面から挑みます。加えて、銀河系内で起こる超新星爆発から到来するニュートリノの観測を通じて、星の誕生と死の過程を解明するとともに、大統一理論で予言されるきわめて稀な現象である陽子崩壊の発見を目指します。これらの研究を通して、宇宙の進化の歴史と、素粒子を統一的に記述する究極の理論に迫ります。

詳しくは、https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/hk/ もご覧ください。

暗黒物質探索

これまでの観測により得られている暗黒物質の存在証拠は、重力相互作用を通じた間接的なものに限られており、その性質や正体は依然としてわかっていません。現在の理解では、銀河は暗黒物質で満たされており、地球もその中を運動しています。このため、暗黒物質が地球上の検出器と稀に相互作用して生じる微弱な信号や、銀河内のどこかで暗黒物質同士が対消滅して生成される二次粒子を観測することで、その存在を直接的に捉えることができます。特に、地球に降り注ぐ宇宙線の中から、暗黒物質の対消滅によって生成される反重陽子(水素の同位体「重陽子」の反物質)に着目しその探索を行っています。自分たちの手で液体アルゴンを用いた高感度検出器を設計・製作し、それを気球に載せて高度30 kmの上空で観測を行います。これにより、従来は到達できなかった低エネルギー領域の反重陽子を測定し、暗黒物質の世界初観測を目指します。

詳しくは、https://grams.sites.northeastern.edu/ (英語ページ)もご覧ください。

量子技術の応用・次世代測定器開発

素粒子物理学の発展は、いつの時代も新しい測定器や加速器の開発・実現とともに進んできました。人類未踏の高エネルギー加速器実験や超精密測定、さらには暗黒物質探索への応用などを見据え、新たな測定器や加速器の研究・開発に取り組んでいます。特に近年急速に発展している量子技術とその周辺分野は、極微の世界を探求する素粒子物理学と高い親和性を持ち、アイディア次第で大きな可能性を秘めています。超伝導を利用した量子センサーや粒子検出器を初めとする最先端技術と、重ね合わせや干渉といった量子力学の原理を活用することで、従来の手法では不可能だった極小・極稀現象の観測に挑みます。

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