宇宙実験

研究室研究者紹介研究テーマ
安東研究室安東 正樹 准教授重力波を用いた天文学、および相対論基礎実験
馬場研究室馬場 彩 准教授X線/ガンマ線を用いた宇宙高エネルギー現象の研究とその装置開発
日下研究室日下 暁人 准教授宇宙物理学実験・観測的宇宙論

物理学の原点であるニュートン力学が、惑星の運動の研究から導かれたことは言うまでもありません。同様に、20世紀の初めにアインシュタインが提唱した一般相対論は、宇宙規模での観測により検証され、ビッグバン宇宙論やブラックホールなど、宇宙を理解する壮大な描像を我々に与えてくれました。さらに最近では宇宙観測を通じ、暗黒物質や暗黒エネルギーという、現代物理学の巨大な謎が姿を現しつつあります。
このように宇宙の実験・観測はつねに、物理学の進展に欠くべからざる役割を演じています。この認識のもと私たち研究室集団は、世界の最先端に立って、新しい実験技術を開発し、それらを駆使して宇宙を実験的・観測的に探求し、そこに新しい物理現象や法則性を追求しています。まずは表1を用い、この様子を概観しましょう。
研究手法から宇宙実験を分類するには、自然界に存在する4つの基本的な力(電磁力、重力、弱い力、強い力)のどれに重点を置くかを考えるのが有効です。狭義の天体観測には、電磁波(電磁力の媒体)が圧倒的に多用されます。いっぽう100年前に発見された宇宙線の主体は、強い力に感じる粒子(陽子、中性子、π中間子など)なので、それらの研究では強い力が主役となります。さらに重力の伝搬である重力波や、弱い力のみに感じる粒子(ニュートリノや、ある種の暗黒物質の候補粒子)が、今後は新しい媒体として大きな役割を演じると期待されています。
宇宙物理学を、扱う現象に注目して分類することもできます。すると、 (1) 宇宙そのものの性質や進化を究明する宇宙論的な研究、(2)宇宙と素粒子論との関係に注目した研究、(3) 星やその集団、あるいは星間ガスの演じる物理現象に焦点を当てる研究、 (4)一般相対論に直結した研究、(5)粒子加速やエネルギー非等分配の研究、などと大別できるでしょう。また分類の3番目の軸となるのは、実験や観測を行う環境です。私たちは、地上、高山、地下(放射線環境や振動を下げるため)、宇宙空間(ロケットや衛星を利用)など、さまざまな場所で最先端の研究を推進しています。
「広義の物理学専攻」では、私たち基幹講座の研究室に加えて、東京大学宇宙線研究所 (協力講座として) およびJAXA宇宙科学研究所 (学際理学併任講座として) が参加し、宇宙の実験観測のほぼ全テーマを網羅しています。この様子を、図1に示します。宇宙物理学は、もっとも国際性の高い学問分野の一つでもあり、多くの外国グループと多彩な共同研究を展開していることは、言うまでもありません。その他にも私たちは、同じ理学系研究科内では天文学専攻、ビッグバン宇宙国際研究センター、地球惑星科学専攻などと、また国立天文台、理化学研究所などの学外機関とも、緊密に連携してます。

  4つの力 現象 場所 キーワード







(番号は
本文参照)





安東研究室       (4)      重力波, 連星中性子星, レーザー干渉計
馬場研究室     (3,5)      X線, 科学衛星, ブラックホール
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図1:A8サブコース全体のイメージ。

【安東研究室】

重力波は光速度で伝搬する「時空のさざなみ」である。重力波をとおして宇宙を見ることにより、光や電波では良く見えないブラックホールや中性子星 の核心に迫ることができる。また重力波は、宇宙の誕生(ビッグバン)直後を見ることができる唯一の手段であると考えられている。私たちは高感度なレーザー 干渉計を開発・建設し、それを用いて「重力波天文学」を実現しようとしている。宇宙空間での重力波観測に向けた準備研究も推進している。

tsubono
レーザー干渉計型の重力波検出器「TAMA300」の、鏡懸架部分。
東京都三鷹市にある国立天文台キャンパスで稼働中。

【馬場研究室】

本研究室では、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) などと協力し、宇宙X線の観測装置を開発し、科学衛星に搭載して、宇宙からのX線やガンマ線(大気で吸収されてしまう)を研究しています。現在は2005年に打ち上げられた日本5機目のX線衛星「すざく」を用い、ガスを吸い込むブラックホールの性質、中性子星の磁場の起源、銀河団を満たす超高温プラズマの動力学などをテーマに、世界トップレベルの研究を推進しています。さらに国内外と協力し、2015年年度末に日本6機目のX線衛星として打ち上げ予定の、ASTRO-Hを開発しています。日本最大の科学衛星で、画期的なX線観測性能を誇り、国際的な注目を集めるこの衛星には、6つの装置が搭載され、そのうち私たちが担当するのは、X線イメジャー装置と軟ガンマ線検出器という2つの新鋭装置です。

maxima
JAXAのM5ロケット6号機による、宇宙X線衛星「すざく」の打ち上げ。
2005年7月10日、鹿児島県内之浦より。
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