yamamoto2018

 現在、世界は経験したこともないさまざまな課題に直面し、容易に先を見通せない時代を迎えつつあります。このような時代にあって大事なことは、課題を論理的に整理し、原点に立ち戻って本質を見抜き、それを解決する力と勇気を持つことです。それには、まさに物理学の方法論が有効です。物理学は、実験と理論を両輪に、一見複雑に見える自然現象の本質を一つ一つ解き明かし、普遍的な法則や概念にまとめ上げてきました。その強固な学理は、天文学、地球科学、化学、生物学などの理学の分野のみならず、工学、情報学や経済学など広い分野で用いられ、学術の基礎と発展を支えています。このような、物事を原点から論理的に考える力は、アカデミアのみならず現代社会のあらゆる分野で求められており、物理学は高度人材供給の点からも大いに期待されています。
 物理学は、19世紀後半から急速な発展を遂げ、時空と物質の根源的探求を通して、現代社会の発展を文化、技術、産業の面から支えてきました。21世紀に入り、質量の起源をも解明し、ダークマター、ダークエネルギーの正体に迫ろうとしています。一方、熱力学や統計力学は、対象やスケールの違いを超えて多様な系を理解する上で大きな役割を果たし、その上に物性物理学、非平衡物理、生物物理、量子情報などの豊かな世界が花開いています。また、レーザーを駆使したフォトンサイエンスは、超精密な時計を実現し、アインシュタインの最後の宿題である重力波の検出を成功させています。このように、物理学は、今も急速に発展しつつあり、次々と生まれる新しい謎に挑戦し続けています。それらの成果は、私たちの自然観をより豊かにし、これまで同様、未来社会を切り開く原動力となるでしょう。
 物理学教室では、世界的にも卓越した物理学者である40名近くの教授・准教授・講師が在籍し、上記を含む物理学の広い分野をカバーして教育・研究を行っています。学部学生の皆さんは、この優れた環境の下で、既存の「知」を学んで力をつけてください。きっとその中で、我々がそこから先をまだ理解していない「知」の地平線を見るでしょう。そしてその向こうに夢を抱いてください。それが皆さんの目標です。
 大学院では、その地平線の先に挑みます。物理学専攻には、物理学教室の教員に加えて、物性研究所、宇宙線研究所、宇宙開発研究機構・宇宙科学研究所などの教員も加わり、物理学の幅広い分野で最先端の研究に取り組んでいます。大学院生の皆さんは、そこでの研究を通して、新しい問題を設定し解決する強い力を育んでください。その経験は、アカデミアに進む場合でも、それ以外のキャリアを歩む場合でも、貴重な財産となるでしょう。若い皆さんの活躍を大いに期待しています。
 このような物理学の研究・教育は、ほとんどが国費と授業料で支えらえています。私たち教職員は皆様方の期待に応えるべく自己改革も含め最大限の努力をしていますが、一方で、研究のフロンティアは急速に発展しつつあり、そこで国際的リーダーシップを執り、若い優秀な人材を育成していくには、一層のご支援を仰がなければならない状況です。皆様方に置かれては、基礎科学分野、なかでも物理学に、未来を拓く「本物のポテンシャル」を感じとっていただき、ご理解と支援を賜りますようお願いいたします。



理学系研究科物理学専攻長
理学部物理学科長
山本 智