物理学科への招待

tsuneyuki2020

理学系研究科物理学専攻長 理学部物理学科長 小形 正男

 物理学を一生の仕事として何が一番うれしいかというと、すべてのことを原理原則に戻って自分の力で考えることができるという点です。もちろん、途中で完全には分からないところ、近似を用いなければならないところもありますが、基本的にはこれまで先人が築き上げてきた巨大な学問体系に、自分なりの小さいかもしれませんが新しい一歩を付け加えるところに喜びがあります。
 物理学は全ての自然科学の基盤であると同時に、自然科学の最先端にあって現在でもダイナミックに変化し続けています。20世紀には物質の成り立ちを探る原子核物理学や素粒子物理学が発展し、物質の構成要素が原子、原子核、素粒子と順次明らかになりました。磁性や電気伝導・超伝導のように、原子や電子が凝縮することで現れる性質を研究する物性物理学も生まれました。これらは半導体や磁気デバイス、レーザー技術と光通信、太陽光発電や蓄電池、医療用MRI、原子力利用など、現代社会を支える様々な産業技術につながっています。さらに20世紀末から今世紀にかけて開発された様々な実験・観測装置は、物理学に新たな展開をもたらしました。たとえば走査プローブ顕微鏡は物質表面の不均一な構造を、ハッブル宇宙望遠鏡はダークマターの存在を明らかにし、カミオカンデ、スーパーカミオカンデによってニュートリノ天文学の幕が開きました。アインシュタインの最後の宿題と言われた重力波もついに検出されました。最先端の物性計測と理論解析から、次元性やトポロジーで物質の性質が決定的に変わることも明らかになりました。非平衡物理、生物物理、量子情報、AIの利用なども大きく進展しています。物理学は今後も私たちの自然観をより豊かにし、未来社会を切り開く原動力となると考えています。
 理学部物理学科ではこれまでの学問体系である量子力学、熱力学・統計力学、相対性理論、固体物理学等を学びますが、4年生の研究室配属や大学院共通講義では最先端の研究に触れて実践することができます。卒業生の多くは研究者を目指しますが、社会に出て物理として学んだ原理原則に立ち戻って問題を理解し解決するという能力を活かしている人も多くいます。
 理学部物理学科には約40名の教授・准教授・講師が在籍しています。また大学院の物理学専攻は物理学科教員のほか、物性研究所、宇宙線研究所、カブリ数物連携宇宙研究機構など14の学内組織、さらには外部機関である高エネルギー加速器研究機構(KEK)、理化学研究所、宇宙科学研究所の教員も含めて、講師以上の教員数が130名を超える、世界でも最大規模の物理学の教育・研究拠点です。興味を持てる研究分野が、その中できっと見つかるはずです。自然界の成り立ちや仕組みを理解したいという好奇心と探求心にあふれた方、曇りのない目と柔軟な発想で自然科学の新しい地平を切り拓きたい方、あるいは社会の課題解決に物理学を役立てたい方を、私たちは心から歓迎します。