物性実験

研究室研究者紹介研究テーマ
岡本研究室 岡本 徹 准教授半導体2次元系における極低温下での新しい量子現象の探索
小林研究室 小林 研介 教授固体素子を用いた精密物性物理学
島野研究室 島野 亮 教授分光学的手法による固体電子物性の研究、光による物質相制御
張研究室 張 奕勁 准教授対称性とナノマテリアルの量子物性
中辻・酒井研究室 中辻 知 教授
酒井 明人 講師
トポロジカル物性物理、超伝導、スピントロニクス
長谷川研究室 長谷川 修司 教授固体表面およびナノスケール構造の物性に関する実験的研究
林研究室 林 将光 准教授電子スピン物性

物性実験 ― 物質の中に見る宇宙 ―

物性物理学では、多様な物質現象の中から新たな物理の基本法則を抽出することを目指しており、その基本法則は次の新たな物質設計にも応用されます。物性実験の魅力は、対象とする物質試料が1つの宇宙であり、その宇宙を自在に設計創作でき、そして実験室内でさまざまな探りを入れてその宇宙からの応答をつぶさに見ることができる、というフレキシビリティと精緻さにあります。自由度の大きい系ですから、予期せぬ発見の驚き(serendipity)に遭遇することもあります。 私たち物性実験グループでは、高温超伝導、超流動ヘリウム、量子ホール状態、表面現象といった多彩な分野にわたって、(1)高品位の新物質を創り出す中から新たな物理を探索する、(2) 他にないユニークで強力な測定手段を使って対象にアプローチする、という2つの方法を組み合わせて研究を進めています。ぜひ、各研究室のホームページでより詳しい活動状況をご覧下さい。一見複雑に見えるさまざまな物質現象を、わずかな基本法則と大胆な近似を使ってその本質をつかみ取る。これは物理学の醍醐味そのものと言えるでしょう。


 長谷川研究室 

研究室のホームページ

長谷川研究室では、人工的に作られた1原子層程度の厚さ、数原子列程度の幅、数十原子程度の大きさを持つ「ナノメータ構造体」の原子配列、電子状態、そして電子輸送特性、量子効果などを研究しています。これらナノメータスケールの構造体は、半導体結晶表面上に形成される「表面超構造」を利用して形成されます。その作成方法を模索すると同時に、走査トンネル顕微鏡・分光法、電子顕微鏡・回折法、光電子分光法、4端子プローブ法など、超高真空中での各種実験手法を駆使し、さらに独自の実験手法も工夫しながら、ナノスケールに特有な原子配列構造、相転移、フェルミオロジー、質量輸送・吸着脱離・原子層成長などの動的変化、電子輸送などの電子物性の実験的研究を進めています。これらはナノサイエンス・ナノテクノロジーの基礎をなす研究となっています。

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 岡本研究室 

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岡本研究室では、半導体界面・表面に形成された2次元電子系の量子物性を中心テーマとしています。

左図は、銀をわずかに堆積させたInSb劈開表面で観測された整数量子ホール効果です。縦抵抗の消失とともに抵抗がh/e2の整数分の1に量子化される領域が出現します。自分の手で作った試料でこのような美しい現を観測できることが物性実験の醍醐味です。

半導体に作られた「2次元の世界」の電子は、金属中の電子と同様に、絶対零度においても止まることなく動き回っています。これは量子効果のおかげなのですが、電子同士の反発力が顔を出すようになると、それぞれの電子は好き勝手に動くことができなくなり、極端な場合には電子が格子を組むことになります。右の図は、シリコンの2次元系において電子の数を調節することにより、電気を流す状態(金属的状態)と流さない状態(絶縁体状態)の移り変わりを観測したものです。電気抵抗の温度依存性が点線を境に逆転していますが、これは電子間の相互作用が強い場合においてのみ見られる現象です。私たちは、(1)相関効果によって固体になる寸前のドロドロした液体状態、 (2)量子効果によって溶けて液体になる寸前のフラフラした固体状態、の両方に興味をもち研究を行っています。

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 林研究室 

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電子の自転に相当する角運動量「スピン」が生み出す物性は多様であり、それを探求する研究は「スピントロニクス」という分野を確立しました。さらに最近では、電子のスピンと波動関数を結合する「スピン軌道相互作用」を利用して物性を開拓する新たな取り組みも進んでいます。
林研究室では、物質中の電子スピンが関与する物理現象に関する研究を行っています。具体的には電子のスピンが生み出す伝導や磁性、光・熱応答などの物性研究を中心に行ってきました。最近は特に、金属・酸化物の超格子やヘテロ構造、2次元系において、スピン軌道相互作用を取り入れることで発現する新たな物性の開拓とその物理解明に関する研究を進めています。
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 小林研究室 

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 私たちの研究室では、量子力学の原理を応用した超高精度の測定技術、すなわち「量子計測(量子センシング)」の研究を行っています。特に、ナノスケールの人工量子系である「メゾスコピック系」と量子計測技術を融合させることで、新たな物性測定の枠組みを構築することを目指しています。
 その中核を成すのが、ダイヤモンド結晶中に存在する格子欠陥「NVセンタ(窒素空孔中心)」です。近年の研究により、NVセンタ中の電子および核スピンの量子状態が極めて長時間安定に保持されることが明らかになってきました。つまりNVセンタは「量子ビット」として理想的な性質を持っているのです。この性質をうまく利用することで、NVセンタを量子センサとして用いた高感度な量子計測が実現可能となります。
 私たちはこの量子センサを利用して、物質中の磁気的な振る舞いや電流分布といった輸送現象を高精度に可視化することを目指しています。これが私たちが現在取り組んでいる量子スピン顕微鏡の研究です。
 量子センサを用いて物質の性質を探求していくことは、世界的にも始まったばかりの試みであり、大きな発展が期待されます。この先には、ナノ磁性体、超伝導、スピングラス、トポロジカル端状態、永久電流、非平衡輸送現象など、重要で魅力的な数多くのテーマが横たわっています。

 


 中辻・酒井研究室 

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 今、物性分野に大変革が起きています。これまでの磁性や超伝導、スピントロニクスといった分野が、トポロジーという概念によって、再び見直され整理・統合され、多くの新しい物理や現象の発見に繋がっています。また、高温超伝導を誘起する量子臨界現象には、ブラックホールの物理が重要であることが認識されつつあります。これは、既存の分野を超えた新しい視点での研究が次の時代をリードすることを示しています。
こうした大きな潮流を先導するのは、新しい概念の創造であり、それを具現するQuantum Materialsの発見です。この原動力となっているのが、理論的な洞察に基づいた物質探索とその合成であり、世界最高精度の物性測定技術です。私たちが生み出すトポロジカル量子物質は新しい物理概念を提供し基礎分野で世界を先導するだけでなく、その驚くべき機能性ゆえに産業界からも次第に注目を集めつつあります。中辻研究室では、こうした独自の量子物質とそのデバイス構造をデザインし、様々な環境での精密な物性及びスピントロニクス測定を自ら行うことで、新しい物理現象とその背後にある物理を開拓しています。また、学内の東京大学物性研究所、海外のジョンズホプキンス大学、カナダCIFARを初め多くの研究室と日常的に交流を深めながら研究を推進しています。
現在行われている具体的な研究テーマは、(1)物質中の素粒子及び新規量子現象の探索、(2)トポロジカル磁性体(下図)のデザインと室温量子伝導、スピントロニクス、(3)強相関電子系における量子相転移と高温超伝導などがあります。
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反強磁性体Mn3Snに現れる磁気多極子とワイル粒子: a. 実空間:6つのMn磁気モーメントは磁気八極子Tを形成。運動量空間:ワイル点の磁極が面内で強的な分布を持ち、室温で大きな仮想磁場(ベリー曲率)を生み出す。挿入図:線形分散の交差点(ワイル点)は必ずペアで現れ、符号の異なる磁極とで特徴づけられる。b. Mn3Snの異常ホール効果と磁化の磁場依存性。磁気八極子(挿入図)の反転に対応して異常ホール効果は符号を変える。磁化は強磁性体に比べるとはるかに小さい(1 mμB程度)。このようなトポロジカルな電子構造を有する様々な磁性体は、数100 テスラの仮想磁場を有し、さらにそれは100ガウス程度の弱い外部磁場で室温で制御できるため、様々なスピントロニクス効果の宝庫でもある。

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