原子核理論
研究室 | 研究者紹介 | 研究テーマ |
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福嶋研究室 | 福嶋 健二 教授 | クォーク・グルーオン量子多体系の研究 |
Liang研究室 | LIANG Haozhao 准教授 | 原子核理論 |
原子核物理学
物質の構造を探ろうとより細かく見ていくと原子の世界にたどりつく。 原子の世界は物差しのスケールが1億分の1cmというミクロの世界であり、そこでは、量子力学が運動の法則となっている。 原子を構成しているのはその真中にいる原子核とそのまわりを回っている電子だ。 そして原子核と電子を結びつけているのは、クーロン力である。
原子の物差しよりもさらに10万分の1の物差しで見てみると、原子核も何個かの粒子でできていることが分かる。 ただ、原子核は原子と違って、真中に親分(原子の場合の原子核)がいてまわりを子分(原子の場合の電子達)がまわっている、というのではない。 下図にあるように、複数の陽子と中性子が互いにつかず離れず、動きまわっているのである。
このように、同じミクロの世界と言っても、原子と原子核の内部構造は全く異なる。 その違いの原因の一つとして、陽子や中性子の間に働く「強い相互作用」がクーロン力や重力と大きく異なる事が挙げられる。 しかもこの強い相互作用は、まだ完全に分かっている訳でもないのだ。
原子核物理学の大きな目的の一つは、強い相互作用の性質を明らかにしながら、それによって一塊りになっている原子核の構造を解明することにある。 強い相互作用は複雑なものであるにもかかわらず、それによって出来ている原子核は大変単純で美しい構造も持つ。 例えば、幾つかの原子核は完全な球形をしているが、別の多くの原子核はラグビーボールのようなきれいな楕円体になっている。 どうしてこんな事が起こり、その楕円体はどういう風に回転するのか? 中性子だけをどんどん原子核に加えていったらどうなるのか? というような問題が現在最先端の研究対象になっており、中性子ハローというトンネル効果のような面白い量子現象も観測されている。
ハドロン物理学
さて、原子核の構成要素である陽子や中性子をさらに細かく見ると、クォークと呼ばれる素粒子とそれを互いにくっつける働きをするグルーオンと呼ばれる素粒子で出来ている。 陽子や中性子の起源は、約137億年前の宇宙のビッグバンにまで遡らねばならない。 ビッグバン直後、宇宙の年齢が約10万分の1秒のころ、宇宙は相転移をおこし、それまで存在していたクォークやグルーオンが凝集して陽子や中性子になったのだ。 この時の宇宙の温度は約1兆度で、太陽中心の温度(約1400万度)と比べても、想像を絶する高温である。
1兆度より高い温度の宇宙では、通常の原子核はもちろんのこと、陽子・中性子もどろどろに溶けて、 強相関するクォークやグルーオンからなる高温プラズマ(クォーク・グルーオン・プラズマ)が実現していたと考えられている(下図)。 また、物質密度が1立方センチあたり1兆グラムもある中性子星のような高密度天体の中心部においては、 低温クォーク物質が超伝導体となって存在する可能性(カラー超伝導)もある。
福嶋研では、クォークとグルーオンの基礎理論である量子色力学(QCD)に基づいて以下のような理論的研究を行っている。
- 数値シミュレーションあるいはQCD有効理論を併用した、高温・高密度・高強度背景場によって引き起こされる相転移に関する研究
- QCD真空のトポロジー的な性質の解析と、実験的検証可能性に関する研究
- 高エネルギーQCDの非線型レジームを記述するカラーグラス凝縮に基づく研究
- QCDを含む相対論的場の理論の量子実時間発展および新しいシミュレーション法の開発
これらを通じて、極限状態における素粒子多体系の究極的理解を得て、宇宙における物質の起源を解明することが、ハドロン物理学の大きな目標となっている。