物性理論

研究室 研究室HP 研究者紹介
(理学部HP)
研究テーマ
宮下研 home01-02 person 相転移・協力現象の統計物理学的研究
小形研 home01-02 person 超伝導と強相関電子系
常行研 home01-02 person 第一原理に基づく物質構造予測と電子状態理論
藤堂研 home01-02 person  計算物理、強相関多体系、乱れた系の統計物理
桂研 home01-02 person 量子多体系の基礎理論、磁性、トポロジカル物性 

 

物性物理学では、巨視的な自由度からなる系の性質を微視的な原理から理解する ことを目的にしている。微視的な原理というのは、量子力学、統計力学を中心と して、電磁気学、光学、古典力学などを物質間の基礎的な相互作用を支配する物 理法則である。相対性理論は素粒子や宇宙を記述するときよく現れるが、固体の 電子構造や物性に電子を取り扱う場合にも重要な役割をする。多くの自由度が織 りなす協力現象は、様々な対称性の変化を伴う相転移はじめ自然を理 解する上で極めて重要である。巨視的な物理系を扱う物性物理学の対象は、固体 に限らず、超流体という量子液体も含む液体や、最近ではレーザー冷却された原 子におけるボース・アインシュタイン凝縮も守備範囲になるなど、扱う領域は広 い。実際、Powers of Tenという本(P. Morrison, Scientific American Books) を見ると、この世界を、超銀河団から始まり、どんどん十倍づつ拡大して見てゆき、 クォークに至る非常にスケールが異なる現象を紹介しているが、その中核をなす十数 ページを舞台としているのが物性物理学である。

最近の物性物理学の目標は、新しいタイプの物性現象の発見、予言、解明である。そこ では、既存や新合成された物質の性質を説明するだけでなく、このようにすれば 新物性が出るのでないかといった積極的な提案もされ「物質設計」と呼ばれてい る。 また、複雑な集団運動を記述する非線形方程式の解明や、量子力学の特徴 を活かしたミクロな量子ダイナミックスについても研究が進められている。

本物理学教室の物性理論分野には、

  • 宮下精二研究室、
  • 小形正男研究室、
  • 常行真司研究室、
  • 藤堂眞治研究室、
  • 桂 法称研究室

という5研究室があり、上で述べた物性物理学の様々な分野をカバーして精力的な研究が行われている。その特徴は、 (a) 非常に基本的な物性基礎論から、現実の物質に即した物質科学に亘る幅広いスペクトルをもった理論グループであること、 (b) 多くの科学研究費や21世紀COEなどを通じて、理論家と実験家が密接に交流していることであろう。
以下に、各研究室を簡単に紹介する。

 

【宮下研究室】

多体の要素からなる系(場)においては構成要素の間の相互作用により、様々な協力現象が現れる。 その典型的な例が、相転移・臨界現象である。そこでは、系を特徴づけるミクロな相互作用が連続的に変化するとき、 巨視的な状態に不連続な変化が現れる。このような相転移は、よく知られた固体、液体、気体の間の変化はじめ、 超伝導、超流動現象、磁石の発生、など自然現象の森羅万象の源である。 さらには素粒子の発現機構や宇宙の生成機構も相転移現象として捉えられる。 また、これらの現象に伴う動的な振る舞いは、非平衡状態で解析は一般的な解析は難しいが、 実際に自然の不思議を理解する上で極めて重要である。これらの現象を、 ミクロな物理法則がどのように巨視的状態に反映するか、特に、相互作用の形態や 構成要素の構造(トポロジー)を反映して「ゆらぎ」がどのようにあらわれるかに ついて統計物理学の手法で研究を進めている。研究室の主なテーマは (a)ゆらぎが大きな系での相転移・臨界現象、 (b)協力現象における動的な変化、 (c)量子ゆらぎが大きな系での多体量子現象、などである。

(a)何の変哲もないミクロな相互作用から巨視的な相転移が生じるかどうかについては20世紀前半には 多くの人が懐疑的であった。しかし、20世紀中頃にL. Onsagerによって系の大きさを 無限大にすることによって系の相互作用の連続的な変化に対して巨視的な量に特異性が表れることが厳密に示され、 多体相互作用への理解が大きく進んだ。その後、繰り込み群の方法をはじめ、系の大きさが無限大で 現れる特異性を抽出する方法が開発され、相転移の詳しい性質が明らかにされてきている。 そこでは、ミクロの変数の構造がもつトポロジカルな性質を反映して、 相転移の性質(ゆらぎのタイプ)が異なることが明らかになっている。 (図に離散的な二値(赤・青で表す)をとるモデル(イジングモデル)、 矢印で表されるモデル(XYモデル)が互いに向きをそろえようとしている過程の例を示す。) 特に2次元系では、2次元に特有な共形変換普遍性を反映した無限個のタイプがあることも明らかになっている。 研究室では、より大きなゆらぎをもつ新しい秩序状態やそこへの相転移の発見をめざして、 相互作用間に競合(フラストレーション)がある場合、系に不均一性・ランダム性がある場合、 量子力学的なゆらぎが大きな場合、さらには光誘起相転移について研究を進めている。

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イジングモデル(左)とXYモデル(右)の秩序化過程

(b)非平衡統計力学も重要な研究テーマの一つであり、大きなゆらぎを反映して起こるゆっくりした 緩和現象の機構解明に関して研究を進めている。特に、多くの縮退、あるいは擬縮退した 秩序状態でエントロピー起因の秩序化が起こることが知られている。 そこで現れる非常に遅い緩和現象の機構解明を進めている。 図に、非常にフラストレーションが強い系の典型例であるかごめ格子上の反強磁性体 (互いに反平行になろうとするスピン系)での基底状態の例を示す。 各三角形に一つ赤丸(上向きスピン)を配置するすべての図形が基底状態になる。 それらの中で斜め下向きのスピンを結んだ線の数が最小になる場合がエントロピー的に最適である。 エネルギー的に基底状態になるのは比較的速いが、エントロピーの緩和は非常に遅い。 また、緩和時間スペクトルの方法を開発し、いろいろな緩和現象のあり方に関する 理論的研究も進めている。

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イジング異方性をもつかごめ格子反強磁性体における基底状態の縮退(風見鶏運動)

(c)量子力学の不確定性原理に基づく「量子ゆらぎ」の効果についても主要テーマの一つである。 この問題は、低温での物性解明のみならず、量子状態の特徴を利用して情報処理の効率を 飛躍的に高めようとする量子情報の基礎的な学問でもあり、いろいろな側面から研究を進めている。 まず、絶対零度で量子ゆらぎの強さによって量子相転移現象と呼ばれる現象が起こる。 図に、三角格子反強磁性体に磁場をかけた場合に起きる相転移の古典的な場合 (熱ゆらぎ起因:横軸は温度)と、それに相当する相が絶対零度で量子ゆらぎのため出現比較する 様子(横軸は相互作用の異方性で量子ゆらぎの強さを表す)を示す。

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XY異方性をもつ三角格子反強磁性の磁場中相図: (左)古典系(熱ゆらぎ)、(右)量子系(S=1/2)(量子ゆらぎ)

また、量子系での動的性質の特徴解明についても研究を進めている。 孤立した分子などではエネルギー準位が離散的になりそこに磁場を書けた場合、 磁場の変化が遅い場合状態が準位に沿って変化するいわゆる断熱変化や磁場の変化に ついて行けない場合に非断熱遷移が起こる。 これらの機構や、そこでの非平衡現象の特徴についても研究している。 図に磁場を下向きから(A)上向き(B)へ変化させる場合の準位構造 と、磁場の速度Vを変化させた場合の磁化変化の様子を示す。

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量子(ランダウ・ゼナー)遷移:(下左)掃引速度が速い場合、(下右)掃引速度が遅い場合

【小形研究室】

物性理論つまり、固体や液体など多くの粒子が相互作用している状態を、 ミクロな理論によって理解しようとしている。 とくに量子現象が顕著に現れる、電子やスピンの問題を中心に研究 している。

教科書に出てくる問題は簡単な場合で、相互作用を考えていない 理想気体とか、自由電子ガスについて書かれている。 しかし、現実には金属中で電子は1Åくらいの平均間隔で存在しているので、 クーロン斥力の効果を無視するわけにはいかないはずである。 それにも関わらず、金属中では電子はサラサラ流れているようにも見える。 もちろん、ドロドロになって電子が流れているような物質も存在する。 さらに超伝導になることもしばしばある。

このように、ドロドロぐちゃぐちゃになっている状態は、自由ガスというよりは 液体状態である。このような状態を、電子同士の強いクーロン斥力 を考慮して理論的に理解しようというのが、われわれの1つの大きなテーマである。 すべての理解への道は険しく遠いが、できる範囲のところで少しずつ研究を 積み重ねているつもりである。 具体的には、高温超伝導を含む新しい超伝導物質の問題や、金属が絶縁体に相転移する現象の理解、 磁性の発現やその種々の状態、磁性と伝導電子の相互作用などを考え、何か 今まで誰も思いつかなかったような現象を見出そうと日々努力している。

(a) 高温超伝導:すでに発見から20年ほど経ってしまっているが、未だに 新たな発見があり続けていて、興味が尽きない。

Mott2

高温超伝導は、絶縁体に動けるキャリアを少し導入することによって発現する ので、超伝導と絶縁体との関係は最も興味ある研究の1つである。 これを理解するために、金属絶縁体転移と超伝導の関係を調べている。 電子の密度が適当な値のときに、クーロン斥力を強くしていくと、 気体液体転移のような1次相転移としての 金属絶縁体転移が実現すると考えられている。 この様子を実空間で理解するために、上の図のような状態を考えて、これらが 波動関数中でどのような重みを持っているかというようなことを考えている。 このようにしてできた絶縁体状態にキャリアを導入すると、高温超伝導が実現するといえる。

(b) コバルト酸化物の超伝導:

CoCrystal

この図は、コバルトを含む酸化物の結晶の図である。正八面体の中央の 黒丸がコバルト原子であり、周りの水色の丸は酸素を表している。 この正八面体の構造が層状構造を組んで、右下の図のような2次元三角格子を形成している。 このような結晶構造を眺めながら、モデルハミルトニアンを構成しミクロな 理論を考えるのである。

コバルトを含む酸化物は2003年に日本で発見された比較的新しい超伝導体 である。この物質は、上の図にあるように、正八面体が非常にきれいな2次元 三角格子を組んでいるので、理論的に大変興味が持たれている。 高温超伝導体が2次元正方格子上で実現していることとの対比を通して、 どのような相違点や共通点が超伝導に重要であるかなどが 明らかになると期待されるからである。

われわれのグループでは、この新しい物質に対しても、いろいろな角度から 超伝導の可能性をミクロに研究している。 最終的には実験との比較によって、どのような理論が適当であるのか 決まるのであるが、理論として(トッピなアイデアを含めて)可能な 超伝導メカニズムを考えることは、とても楽しいことである。

(c) 有機伝導体:

Yuuki

この図は有機伝導体の1つである。中央の黄色い平面状の分子が重なっていて、 上の方から見ると2次元平面を作っている。この分子の上を電子が移動することに よって、やはり2次元電子系が実現している。青い原子分子の部分は、電子などの 供給源ではあるが、2次元面を隔てる役割もしている。

この一見複雑な構造からわかるように、 分子の修飾などいろいろと微妙な変更が可能である。このことによって、 有機物質の構造には、ほぼ無限大の可能性があるといえる。 有機物質は物性の宝庫である。

このような有機伝導体においても、超伝導や金属絶縁体転移などが 様々なバージョンとして現れる。これらも理論的に比較的単純なモデルによって 理解することが進められている。 たとえば、新しい秩序状態である「電荷秩序状態」という概念が、最近の有機物の研究で 明らかになった。 この新しい秩序状態近傍での電荷の自由度に着目し、それの引き起こす 特異な現象やダイナミクス、および超伝導に関する研究も行なっている。

さらに例えば、幾何学的フラストレーションによる量子融解とか、電荷秩序近傍の 電荷ゆらぎによって引き起こされる超伝導とか、スピン自由度の特異なふるまい、 局在スピンとの相互作用をもつ1次元有機系、といったことも調べている。

【常行研究室】

原子論・電子論にもとづくコンピュータシミュレーション手法、 分子動力学法や第一原理電子状態計算を使って、できる限り具体的な物質の物性を探ることにより、 物性物理学の新たな展開を目指している。とくに固体表面や超高圧下など,実験だけでは十分な情報が得られない極限条件での物質の振る舞いを明らかにすること,またそのための新しいシミュレーション手法開発が,常行研究室の主要なテーマである。

(1) 表面科学
半導体や金属表面への分子吸着,表面化学反応,触媒反応,これらは応用にも直結する重要な現象であるが,現在の実験観測手法では空間分解能,時間分解能の両面で情報不足である。そこで実験結果に依存しない非経験的な計算機シミュレーション(第一原理計算)を使って,表面吸着分子の安定構造,その電子状態,化学反応経路の理論探査などを行っている。

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複数の分子間でプロトンを「リレー」しながらシリコン表面に水分子が
解離吸着(H2O+2Si→H-Si + HO-Si)する様子。(始状態と終状態)

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Si表面に吸着したシクロヘキサジエンの構造(理論予測)

(2) 高圧物性
固体水素の構造相転移と金属化,YH3(金属水素化物)の絶縁体金属転移など,実物実験が困難だったり,たとえ出来たとしても情報量の極めて少ない超高圧下で,物質がどのような結晶構造をとるか,またどのような電子相転移があり得るかを,第一原理計算や拡張アンサンブル法を使って探っている。

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固体水素の相図と経路積分法(第一原理)で見た分子性固体水素の構造。

(3) 水素を含む固体

実験的観測が困難な固体中の水素原子分布や電子状態を,第一原理的手法(第一原理分子動力学法,経路積分法)を用いて調べている。とくに原子核が軽いことによる量子効果に着目した研究を行い,量子効果がむしろ原子の局在化をもたらす可能性(量子局在化現象)を指摘している。

(4) 新しい電子状態計算手法の開発
オーソドックスな密度汎関数理論に基づく第一原理電子状態計算手法の開発に加え,波動関数理論の立場で電子相関を取り入れた固体の電子状態計算を行う新しい手法「トランスコリレイティッド法」や,拡張アンサンブルを用いた構造探査法の開発を行っている。

tsuneyuki_bandgapトランスコリレイティッド(TC)法により計算された様々な半導体の
バンドギャップとその実測値。同じ波動関数理論である
ハートリーフォック(HF)法から大幅な改善が見られる。

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