物性実験

研究室 研究室HP 研究者紹介
(理学部HP)
研究テーマ
福山研 home01-02 person 超低温における量子流体/固体および低次元電子系の実験研究
長谷川研 home01-02 person 固体表面およびナノスケール構造の物性に関する実験的研究
岡本研 home01-02 person 半導体2次元系における極低温下での新しい量子現象の探索
島野研 home01-02 person 分光学的手法による固体電子物性の研究、光による物質相制御
髙木・北川研 home01-02 髙木 英典
北川 健太郎
固体電子物性、強相関電子系、量子臨界現象
林研 林研HP person 電子スピン物性
小林研 小林研HP person 固体素子を用いた精密物性物理学
中辻研 中辻研HP person トポロジカル物性物理、超伝導、スピントロニクス

 

物性実験 ― 物質の中に見る宇宙 ―

物性物理学では、多様な物質現象の中から新たな物理の基本法則を抽出することを目指しており、その基本法則は次の新たな物質設計にも応用されます。物性実験の魅力は、対象とする物質試料が1つの宇宙であり、その宇宙を自在に設計創作でき、そして実験室内でさまざまな探りを入れてその宇宙からの応答をつぶさに見ることができる、というフレキシビリティと精緻さにあります。自由度の大きい系ですから、予期せぬ発見の驚き(serendipity)に遭遇することもあります。 私たち物性実験グループでは、高温超伝導、超流動ヘリウム、量子ホール状態、表面現象といった多彩な分野にわたって、(1)高品位の新物質を創り出す中から新たな物理を探索する、(2) 他にないユニークで強力な測定手段を使って対象にアプローチする、という2つの方法を組み合わせて研究を進めています。ぜひ、各研究室のホームページでより詳しい活動状況をご覧下さい。一見複雑に見えるさまざまな物質現象を、わずかな基本法則と大胆な近似を使ってその本質をつかみ取る。これは物理学の醍醐味そのものと言えるでしょう。


 福山研究室 

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温度は物理学の中でも最も基本的な変数の1つです。極微の基本粒子を調べるため高エネルギーの実験を必要とする素粒子の世界に対し、物性物理学では、多数の粒子が凝集した物質全体の振る舞いを調べるため、できるだけ低エネルギー、すなわち低温環境で実験することが重要です。さまざまな技術を駆使して試料を少しでも絶対零度に近づけて、系固有の相転移、素励起、基底状態を明らかにするのが低温物理学で、熱擾乱のベールをはいだ低温の世界は新しい物理現象や物理概念の宝庫です。私達はそこに最先端の測定技術を組み合わせ、以下のようにその地平を拡げる努力をしています。

(1) ボース粒子であるヘリウム4やフェルミ粒子であるヘリウム3(3He)が凝集した液体・固体は、低温で超流動、磁性超流動、スピン液体、など粒子の統計性や量子力学が本質的な役割を果たすユニークな物理現象を示す物質系で、量子流体・量子固体と呼ばれます。図1Aは1原子層の2次元 3Heで観測した熱容量異常です。核磁気共鳴測定や理論計算も併用して詳しく調べた結果、この系では図1Bのように空格子点が絶対零度でも結晶性を保ったまま動き回ることで新しいタイプの量子流体が実現していることが分かってきました。2次元系には3次元系とは異なる多くの新奇な物性が隠されています。
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(2) 私達が開発した超低温走査トンネル顕微鏡 (ULT-STM:図2A)は、超低温・高磁場下で物質表面の電子状態を原子分解能をもって調べることができる、世界でも有数の装置です。この装置を使ってグラファイト表面の擬2次元電子系が磁場中でランダウ量子化する様子を捉えたのが図2Bで、図2Cはそのときの電子の局在を示す波動関数の空間分布です。これらの実空間観測で、量子ホール効果を理解する上で不可欠のランダウ量子化と電子局在の関係が初めて可視化できるようになりました。この他にも、ULT-STM装置の高い能力と機動性を活かして、グラフェン(1原子層のグラファイト)、半導体量子ドット、異方的超伝導体など幅広い物質の電子物性研究を内外のグループとも共同で推進しています。
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 長谷川研究室 

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長谷川研究室では、人工的に作られた1原子層程度の厚さ、数原子列程度の幅、数十原子程度の大きさを持つ「ナノメータ構造体」の原子配列、電子状態、そして電子輸送特性、量子効果などを研究しています。これらナノメータスケールの構造体は、半導体結晶表面上に形成される「表面超構造」を利用して形成されます。その作成方法を模索すると同時に、走査トンネル顕微鏡・分光法、電子顕微鏡・回折法、光電子分光法、4端子プローブ法など、超高真空中での各種実験手法を駆使し、さらに独自の実験手法も工夫しながら、ナノスケールに特有な原子配列構造、相転移、フェルミオロジー、質量輸送・吸着脱離・原子層成長などの動的変化、電子輸送などの電子物性の実験的研究を進めています。これらはナノサイエンス・ナノテクノロジーの基礎をなす研究となっています。

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 岡本研究室 

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岡本研究室では、半導体界面・表面に形成された2次元電子系の量子物性を中心テーマとしています。

左図は、銀をわずかに堆積させたInSb劈開表面で観測された整数量子ホール効果です。縦抵抗の消失とともに抵抗がh/e2の整数分の1に量子化される領域が出現します。自分の手で作った試料でこのような美しい現を観測できることが物性実験の醍醐味です。

半導体に作られた「2次元の世界」の電子は、金属中の電子と同様に、絶対零度においても止まることなく動き回っています。これは量子効果のおかげなのですが、電子同士の反発力が顔を出すようになると、それぞれの電子は好き勝手に動くことができなくなり、極端な場合には電子が格子を組むことになります。右の図は、シリコンの2次元系において電子の数を調節することにより、電気を流す状態(金属的状態)と流さない状態(絶縁体状態)の移り変わりを観測したものです。電気抵抗の温度依存性が点線を境に逆転していますが、これは電子間の相互作用が強い場合においてのみ見られる現象です。私たちは、(1)相関効果によって固体になる寸前のドロドロした液体状態、 (2)量子効果によって溶けて液体になる寸前のフラフラした固体状態、の両方に興味をもち研究を行っています。

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 髙木・北川研究室 

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髙木・北川研究室では、固体中の電子多体系が示す新奇な量子電子相の探索と相形成のメカニズム解明の研究を推進しています。遷移金属化合物中の伝導や磁性を支配しているのは主に遷移金属元素のd,f軌道を占める電子です。d,f電子はクーロン相互作用により強く相関していて、電荷、スピン、軌道(縮退する軌道のどれを選ぶか)の 自由度がしばしば顔を出します。例として、エキゾチックな磁性共存超伝導、電荷液晶状態、量子スピン液体状態といった元の結晶構造からは想像できないよう なバラエティ豊かな状態が出現するのが物性物理の醍醐味の一つです。髙木・北川研究室では試料合成、薄膜形成、超高圧・強磁場・極低温複合極限環境を駆使 してこのような新しい状態を創りだし、その詳細を明らかにするために物質の外部から電磁気的・熱力学的性質を探るマクロな測定と物質の内部からスピンと軌 道の性質を測る核磁気共鳴法や非弾性共鳴X線散乱実験などのミクロな測定の両面からアプローチしています。
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 林研究室 

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電子の自転に相当する角運動量「スピン」が生み出す物性は多様であり、それを探求する研究は「スピントロニクス」という分野を確立しました。さらに最近では、電子のスピンと波動関数を結合する「スピン軌道相互作用」を利用して物性を開拓する新たな取り組みも進んでいます。
林研究室では、物質中の電子スピンが関与する物理現象に関する研究を行っています。具体的には電子のスピンが生み出す伝導や磁性、光・熱応答などの物性研究を中心に行ってきました。最近は特に、金属・酸化物の超格子やヘテロ構造、2次元系において、スピン軌道相互作用を取り入れることで発現する新たな物性の開拓とその物理解明に関する研究を進めています。
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 小林研究室 

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 近年、固体素子(電子回路部品)を使って、量子力学的な効果を人間の手で制御しようという人工量子系の研究が活発に行われています。扱われる固体素子の多くは、半導体や金属薄膜を微細加工して作られる数nm~数ミクロン程度の極小の電子回路です。しかし、それらはいくつかの外部パラメータによって制御できるように設計されている点で、小さな実験室とみなすこともできます。このような研究は、ナノテクノロジーの発展によって初めて可能になったものであり、現在、スピントロニクス・量子コンピューティング・強相関・トポロジーなどの幅広い観点から盛んに研究が行われています。
この分野の最大の醍醐味は、電子の電荷・スピン・コヒーレンス・多体効果などの量子力学的な効果を様々に制御できる点にあります。また、実験と理論との精密な比較が可能であることも、大きな特色です。定量的な研究を行うことによって、量子効果を利用した超高感度測定が可能となりますし、逆に、精密測定によってこれまでに想像すらできなかったような新現象が発見される可能性もあります(下図左は「ゆらぎの定理」の検証に用いた電子波干渉計、右は量子液体の非平衡ゆらぎを研究したカーボンナノチューブ人工原子を示しています)。
私たちは、さまざまな物質を微細加工し、組み合わせることで新現象の発見を目指すと同時に、高精度電流ゆらぎ測定などの新しい測定手法の開発を行い、固体素子を用いた精密物性物理学を開拓します。
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 中辻研究室 

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 今、物性分野に大変革が起きています。これまでの磁性や超伝導、スピントロニクスといった分野が、トポロジーという概念によって、再び見直され整理・統合され、多くの新しい物理や現象の発見に繋がっています。また、高温超伝導を誘起する量子臨界現象には、ブラックホールの物理が重要であることが認識されつつあります。これは、既存の分野を超えた新しい視点での研究が次の時代をリードすることを示しています。
こうした大きな潮流を先導するのは、新しい概念の創造であり、それを具現するQuantum Materialsの発見です。この原動力となっているのが、理論的な洞察に基づいた物質探索とその合成であり、世界最高精度の物性測定技術です。私たちが生み出すトポロジカル量子物質は新しい物理概念を提供し基礎分野で世界を先導するだけでなく、その驚くべき機能性ゆえに産業界からも次第に注目を集めつつあります。中辻研究室では、こうした独自の量子物質とそのデバイス構造をデザインし、様々な環境での精密な物性及びスピントロニクス測定を自ら行うことで、新しい物理現象とその背後にある物理を開拓しています。また、学内の東京大学物性研究所、海外のジョンズホプキンス大学、カナダCIFARを初め多くの研究室と日常的に交流を深めながら研究を推進しています。
現在行われている具体的な研究テーマは、(1)物質中の素粒子及び新規量子現象の探索、(2)トポロジカル磁性体(下図)のデザインと室温量子伝導、スピントロニクス、(3)強相関電子系における量子相転移と高温超伝導などがあります。
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反強磁性体Mn3Snに現れる磁気多極子とワイル粒子: a. 実空間:6つのMn磁気モーメントは磁気八極子Tを形成。運動量空間:ワイル点の磁極が面内で強的な分布を持ち、室温で大きな仮想磁場(ベリー曲率)を生み出す。挿入図:線形分散の交差点(ワイル点)は必ずペアで現れ、符号の異なる磁極とで特徴づけられる。b. Mn3Snの異常ホール効果と磁化の磁場依存性。磁気八極子(挿入図)の反転に対応して異常ホール効果は符号を変える。磁化は強磁性体に比べるとはるかに小さい(1 mμB程度)。このようなトポロジカルな電子構造を有する様々な磁性体は、数100 テスラの仮想磁場を有し、さらにそれは100ガウス程度の弱い外部磁場で室温で制御できるため、様々なスピントロニクス効果の宝庫でもある。

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