物理学の深さと広さ
-物理学科および大学院物理学専攻を志す皆さんへ-

hasegawa2016
物理学専攻長・物理学科学科長
長谷川 修司

 物理学とは、実験と理論を両輪にして、我々を取りまく森羅万象を一つ一つ解き明かし、普遍的な法則や概念にまとめ上げていく学問です。七色の虹や美しい対称的な形の雪の結晶など身近な現象から、宇宙はどのようにしてでき、どうなってゆくのか、それを認識する我々という生命はどうやってできたのかという壮大な疑問、また最近では経済・社会現象までも含めて極めて多様な対象を扱う学問です。
 特に、物質の成り立ちを求めて、原子・分子、原子核、素粒子にいたる要素還元論的な物理学は大きな成功を収め、今や、質量の起源をも解明し、ダークマターなど未知の粒子にも迫ろうとしています。また、素粒子の世界が宇宙の始まりの理解につながることも大きな驚きです。一方、この要素還元論的な物理の方法を物理学の縦糸とすると、異なる現象の関係をつなぎ、物理学の対象を広げる横糸のような分野もまた重要です。例えば、熱力学や統計力学は、対象やスケールの違いを超えて様々な系に適用でき、それらの上に築かれた物性物理学、非平衡物理、生物物理、量子情報などでは、物理学の対象をさらに拡張しつつあります。このように、物理学の概念や手法は、縦横に網目のように絡み合いながら自然の理解を広げ、社会やテクノロジーにも影響を及ぼしながら、まさに現在進行形で「進化」しています。



 理学部物理学科では、世界的にも卓越した物理学者である40名近くの教授・准教授・講師が在籍し、また、ほぼ同数の助教とともに、物理学の広い分野をカバーして教育を行っています。学部3、4年次では、量子力学、統計力学、電磁気学、相対論など物理学の基礎となる講義だけでなく、充実した実験カリキュラムも用意されており、理論・演習・実験をバランスよく学ぶことができます。様々な知的活動の基礎となるように、断片的な知識の伝達ではなく、物理学的な考え方、自然に対するアプローチ、論理的な明晰性と徹底性、さらにその履修過程において、情報収集力や分析力、コミュニケーション力、計画性、忍耐力を、学生自身の体験を通して身につけさせることを教育の基本目標としています。さらに、4年次では専門分野での最前線の研究に触れる機会もあり、大学院での研究へとつながっています。教員だけでなく、優秀な同級生や先輩後輩との交流による切磋琢磨を通して、「自分で考え自分で道を切り拓いていける人間力」を身に付けることができると考えています。それらは、研究者に限らず、どんな知的職業についても必要とされる基礎力です。物理学科で、のびのびと学び、人間として成長して欲しいと願っています。



 大学院理学系研究科物理学専攻では、理学部物理学科に所属する教員だけでなく、低温センター、新領域創成科学研究科、ビッグバン宇宙国際研究センター、原子核科学研究センター、素粒子物理国際研究センター、宇宙線研究所、物性研究所、カブリ数物連携宇宙研究機構、生産技術研究、総合文化研究科など本郷キャンパスだけでなく柏キャンパスや駒場キャンパスにある部局の教員、あるいは、東京大学の枠を超えて宇宙航空研究開発機構、高エネルギー加速器研究機構、理化学研究所などの教員も協力講座として参加し、総勢130名を超える教員を擁する世界的な一大研究拠点となって、大学院の教育研究を行っています。2015年の受賞者である梶田教授が記憶に新しいところですが、当物理学専攻から数名のノーベル賞受賞者を輩出していることはよく知られています。留学生や外国人研究者も多く、また、国際的な共同研究、大学院生の海外インターンシップ派遣、大学院生による国際会議での発表等も多数行われており、国際的な環境で活発な研究活動を行っています。
 本物理専攻では,例年、修士課程の大学院生のうち半数以上が博士課程に進学します。最近まで,博士課程を修了した学生は学界に残って研究者になるが,修士課程を修了して社会に出た学生は産業界や官界で活躍するのが一般的と考えられていました。しかし、近年,博士課程を出た人材がその問題発見・解決能力の高さゆえ,学界ばかりでなく社会のさまざまな分野で活躍する能力を持つことが認識されるようになってきました。大学院での研究とは、学部までの勉強と違い、答えのわからない問題に挑戦して新しい知見を得て、それを学問体系に組み込んでゆくという行為です。それによって、今までにない新しい概念やパラダイムシフトを生み出したり、人類が持っている疑問や問題の解決の糸口を見出したりします。しかし、そのような研究を経験して得られるものは、学問発展に寄与するだけでなく、おおげさに言えば人類普遍の幸福に資する問題解決やさまざまな知的活動に役立つものです。大学院生には、自分の専門を深く掘り下げると同時に、そのような大志を持って研究に挑んで欲しいと思っています。数々の困難を克服しながら進めていく研究を経験することによって得られる「人間力」は、研究者に限らず、どんな知的職業についても役立つ強力な「武器」となるでしょう。物理学専攻では、研究活動を通して、人類社会に貢献する人材を育てています。



理学系研究科物理学専攻長
理学部物理学科長
長谷川 修司