知の物理学研究センター センター長挨拶

 

知の物理学が切り拓く科学と技術のフロンティア

物理学は、自然現象を数学的に表現した法則を発見することで、自然科学の基礎を築いてきました。一方、人工知能はデータに基づいて計算を進めることで、高度な知見や問題解決能力を獲得する技術です。本研究センターが目指す物理学と人工知能の融合は、自然現象の理解や予測、新しい発見や技術の創出につながる大きな可能性を秘めています。

例えば、物理学の知識や法則を人工知能に取り入れることで、人工知能の性能や汎用性が格段に向上することが分かってきました。分子や材料の特性や反応を予測する人工知能は、量子力学や統計力学などの物理学の理論を利用することで、学習データから外れた領域でも高精度に予測ができるようになります。また、物理学の法則は、データに潜む一般的な傾向や規則性を示すことができるため、人工知能の解釈性や説明性を高めることにも寄与することが期待されています。

逆に、人工知能の計算能力や学習能力を物理学に応用することで、物理学の研究に革新をもたらすことができます。量子コンピュータは、重ね合わせという量子力学の現象を利用することで、従来のコンピュータでは不可能な高速な計算を可能にします。こうした新しい計算原理の導入は、量子化学や素粒子物理学などの分野で新たな発見につながると予想されています。また、画像認識や生成系AIとして広く用いられている深層学習は物理現象の解析や生成にも利用できます。これにより、波動関数や磁気抵抗などの物理量を高精度に推定したり、新しい物質や構造を設計したりすることが可能になりはじめています。

このように、物理学と人工知能の融合は、両者の強みを相乗的に発揮することで自然科学や工学に新しく広大なフロンティアを急速に切り拓きつつあります。その一方で、あまりにも変化のスピードが速いため、こうした新たな研究分野を担う人材の不足が大きな問題となっています。

我々は物理学の本質的理解に基づく「知の物理学」研究を通じて、基礎学理から応用までを俯瞰できるトップ人材を育成することにより、この問題の解決に貢献したいと考えています。再現性や信頼性が高い物理学のビックデータを、物理学の原理に基づいて分析することは、物理学の幅広い素養を身に着けた高度AI人材の育成に最適な実地訓練となります。そのような人材は学術分野や産業界に限らず社会のあらゆる場面での活躍が期待され、そのニーズは今後ますます高まると考えられます。本研究センターは、学生や博士研究員を巻き込みながら知の物理学研究を展開することで、世の中を大きく変革する可能性を秘めた人材の育成を進めます。

大学院理学系研究科附属 知の物理学研究センター長
大学院理学系研究科物理学専攻 教授
樺島 祥介

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