物理学教室 談話会(7月11日)
コロキウム・談話会 2025/06/16
講師:東後 篤史 氏
所属:NIMS
題目:第一原理フォノン計算の応用とコード実装:科学技術計算を用いた研究戦略
日時:2025年7月11日(金)17:00-18:00
場所:小柴ホール
フォノンは比熱、熱伝導、熱電変換、超伝導など、結晶物性の多様な側面に関わる基礎的物理概念である。近年、密度汎関数法などの第一原理計算を利用することで、フォノン状態を高精度で予測できるようになり、フォノン計算は物性・材料研究において必須ツールとなっている。私は当初、自身の研究目的でフォノン計算コードの開発を始め、15年以上にわたり材料研究にフォノン計算を応用してきた [1,2]。このコードはインターネットを通じて世界中の研究者に活用されるようになり、これにより、私自身も貴重な経験を積むことができた。 近年、科学技術計算コードを取り巻く環境は大きく変化している。AIによるコード生成技術や開発環境の進歩により、コード開発のハードルは著しく下がった。また、機械学習の進展に伴い、信頼性の高い科学データの価値が再評価され、それらを系統的に生成するエンジンとしての科学技術計算コードの重要性が改めて認識されている。さらに、強化学習の応用により理論計算手法や計算アルゴリズムが飛躍的に進歩することが期待され、科学技術計算はこれまで以上に魅力的な研究分野となるだろう。 コード自動生成の時代においては、既存のコードそのものより、科学技術計算の背後にある専門知識の継承が課題となる。ハードウェア特性を最大限に活かす方法、計算規模に応じた最適化戦略、それらを踏まえた定式化手法、ユーザビリティの向上、パフォーマンスと保守性を両立させる実装技術など、研究の進展速度を左右する知見は数多く存在する。こういった知識や経験を共有することは科学技術計算分野の持続的発展において不可欠である。 本講演では、フォノン計算の応用例や実装などを紹介しながら、科学技術計算コード開発の将来展望と効果的な研究戦略について考察する。 [1] A. Togo, L. Chaput, I. Tanaka, J. Phys.: Condens. Matter 35, 353001 (2023) |