物理学教室 談話会(6月19日)

コロキウム・談話会 2026/05/14

講師:渡邉 峻一郎 氏
所属:理化学研究所 創発物性科学研究センター
題目:有機半導体の電荷・スピン・フォノン
  (Charge, Spin, and Phonons in Organic Semiconductors)
日時:2026年6月19日(金)17:00-18:30
場所:小柴ホール

(ミレニアムサイエンスフォーラム 共催講演会)
第24回 (2022年)サー・マーティン・ウッド賞受賞記念講演

 分子軌道がファンデルワールス相互作用によって弱く結びついた分子集合体は、室温近傍での溶液プロセスによる低コストな半導体製造を可能にする。分子がもつ「柔らかさ」と半導体機能の共存は、フレキシブル・プリンテッドエレクトロニクスの基盤を築いてきた。一方で、有機半導体において電荷は隣接分子間のわずかな分子軌道重なりを介して伝搬するため、隣接分子間のトランスファー積分は無機半導体と比較して一桁小さい。さらに、欠陥などに起因する静的無秩序に加え、分子の熱振動による動的無秩序が室温においても極めて大きく、電子の空間的コヒーレンスは容易に失われる。強固な周期的静電ポテンシャル、すなわち「硬さ」が固体電子物性の基盤となり、無機半導体の優れた電子特性を説明してきたことを鑑みると、有機半導体における「柔らかさ」を議論するための物理基盤は依然として脆弱である。
 我々は精密なプロセス工学により、有機半導体層からなるウエハサイズ単結晶を、簡便なワンショット溶液プロセスによって形成することに成功した[1-4]。特に単結晶系では、粒界や欠陥の影響を受けない本質的な電子物性を正確に評価することが可能となり、高品質単結晶薄膜を用いることで有機半導体における電荷・スピン・フォノン相関に関する理解を深化させている[5,6]。低分子系有機半導体の電子伝導が、その単結晶性を担保として固体電子論を適用できる一方で、高分子系有機半導体は不可避の欠陥を含むため、電子伝導の理解はいっそう複雑になる[7-9]。本講演では、柔らかな有機半導体に基づくプリンテッドエレクトロニクスの最近の進展を概説するとともに、この半世紀にわたる有機エレクトロニクスの中心課題について議論する。すなわち、「有機半導体の移動度はどこまで向上し得るのか?」「移動度を制限している本質的要因は何か?」「有限のディスオーダーを有する凝縮系固体をどのように取り扱うか?」を議論する。

[1] A. Yamamura, S. Watanabe, J. Takeya, Sci. Adv. 4, aao5758 (2018). 
[2] T. Makita, S. Watanabe, J. Takeya, PNAS. 117, 80 (2019).
[3] T. Sawada, S. Watanabe, J. Takeya, Nat. Commun. 11, 4839 (2020).
[4] T. Okamoto, S. Watanabe, J. Takeya, Sci. Adv. 6, aaz0632 (2020).
[5] J. Tsurumi, S. Watanabe, J. Takeya, Nat. Phys. 13, 994 (2017).
[6] N. Kasuya, S. Watanabe, J. Takeya, Nat. Mater. 20, 1401 (2022).
[7] K. Kang, S. Watanabe, H. Siriringhaus, et al., Nature Materials 15, 896 (2016).
[8] Y. Yamashita, J. Takeya, S. Watanabe, Nature 572, 634 (2019).
[9] S. Watanabe, J. Takeya, et al., Physical Review B 100, 241201(R) (2019).


本講演はサー・マーティン・ウッド賞の受賞記念講演として、例年通り賞の主催団体であるミレニアム・サイエンス・フォーラムとの共催で開催させていただきたく思います。セミナー開始前には、ミレニアム・サイエンス・フォーラム事務局のオックスフォード・インストゥルメンツ株式会社から、茶菓の提供があります。

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