2024年度 前期 物理学教室コロキウム

コロキウム・談話会 2024/03/21

第142回 コロキウム

【日時】2024年5月10日(金)17:00-18:30
【講演者】田崎 晴明 氏(学習院大学 理学部物理学科)
【場 所】小柴ホール
【タイトル】なぜすべては熱平衡状態に向かうのか? 現代的な視点から

 May 10, 17:00-18:30
 Department colloquium by Hal Tasaki. 
Department of Physics, Gakushuin Univeristy.

「熱平衡状態とはそもそも何なのか?」、「なぜすべては熱平衡状態に向かうのか?」という平衡統計力学の基盤に関わる問いにマクロな量子多体系の性質に基づいて答えようという試みが続いている。鍵になるのは、「熱平衡状態とはありふれた性質の総称」という典型性、そして「エネルギー固有状態が熱平衡状態の性質を持つ」という ETH(Energy eigenstate thermalization hypothesis)と呼ばれる考えである。

ごく最近、1次元の固体を模した(実は自由フェルミオン鎖と等価な)単純な量子多体系において、全エネルギーのゆらぎが小さい任意の初期状態からシュレディンガー方程式に従って時間発展するとき、十分に長い典型的な時間の後には系の状態が温度が均一な熱平衡状態になることを、未証明の仮定をいっさい用いず、証明した。この(おそらく初めての)熱平衡状態への緩和の厳密な例を軸に、「現代的な視点」から平衡統計力学をどう基礎づけるかを考えたい。

 


第143回 コロキウム

【日 時】2024年5月31日(金)17:00-18:30
【講演者】相川 清隆 氏(東京大学 理学系研究科)
【場 所】小柴ホール
【タイトル】単一浮揚ナノ粒子の超低温フィードバック制御

 May 10, 17:00-18:30
 Department colloquium by Aikawa Kiyotaka . 
(Graduate School of Science, University of Tokyo.

真空中に浮揚させたナノサイズのシリカ微粒子(ナノ粒子)は、原子・分子より大きな物体の極限的な制御に取り組むオプトメカニクスの分野における新たな実験系として注目を集めている。この実験系は、外界から極めてよく隔離されているという特長をもち、物体の運動に関する量子的な振る舞いを探る格好の舞台となると期待されている。本講演では、まず、この新しい研究分野の概要や主要な成果、特にナノ粒子の運動の量子基底状態付近への冷却について紹介する。その上で、我々のグループにおいて最近実現した、ナノ粒子の3つの重心運動を量子基底状態付近へと冷却しつつ、同時に3つの回転運動をも超低温へと冷却する技術や、これを利用してナノ粒子の形状を光学的に精密決定する技術について紹介し、今後の研究の展望について議論する。

 


第144回 コロキウム

【日 時】2024年6月7日(金)17:00-18:30
【講演者】Feng Liu 氏 (University of Utah、GSGC)
【場 所】小柴ホール
【タイトル】Excitonic Bose Einstein Condensation in Topological Flat Bands

 June 7, 17:00-18:30
 Department colloquium by Feng Liu . 
(University of Utah、GSGC.

 

 

 

第141回 コロキウム(終了しました)

【日 時】2024年4月19日(金)17:00-18:30
【講演者】橋坂 昌幸 氏(東京大学 物性研研究所)
【場 所】小柴ホール
【タイトル】エニオン観測・制御実験の幕開け

 April 19, 17:00-18:30
 Department colloquium by  Hashisaka Masayuki. 
(University of Tokyo Institute for Solid State Physics.)

2次元の量子多体系が非自明なトポロジーを有するとき、ボーズ統計・フェルミ統計のいずれとも異なる量子統計に従う準粒子、すなわちエニオンを発現する可能性がある。エニオン統計の特徴は、あるエニオンが他のエニオンを周回して元の位置に戻った時、その終状態が初期状態と異なることである。エニオンを紐に見立てると、この操作は2本の紐を絡み合わせる操作(ユニタリー変換)に相当し、組み紐操作(ブレーディング)と呼ばれる。ブレーディングを量子計算における量子ゲート操作として用いると、エラー耐性を持つトポロジカル量子計算を実行できると期待されている。
エニオンの代表例として、トポロジカル超伝導体におけるマヨラナ粒子や、分数量子ホール系における準粒子などが盛んに研究されている。しかしエニオン統計の直接的な検証(ブレーディングの実行とその結果の観測)は、極めて高度な制御・観測技術を必要とする困難な課題であり、長く未解決であった。ところが2020年に分数量子ホール系試料を用いた検証実験が報告[1,2]され、エニオンのブレーディングが現実の実験対象となり、世界的に大きな研究潮流を形成しつつある。本講演では、分数量子ホール系のエニオン研究を我々の最近の関連研究[3,4]も含めて紹介し、この分野のこれまでの展開と今後の課題について議論する。

[1] H. Bartolomei et al., Science 368, 173 (2020).
[2] J. Nakamura et al., Nature Physics 16, 931 (2020).
[3] M. Hashisaka et al., Nature Communications 12, 2794 (2021).
[4] M. Hashisaka et al., Physical Review X 13, 031024 (2023).

 

 

 

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