2024年度 後期 物理学教室コロキウム
コロキウム・談話会 2024/08/21
第145回 コロキウム(終了しました)
【日 時】2024年10月11日(金)17:00-18:30
【講演者】野地 博行 氏(東京大学大学院工学系研究科)
【場 所】小柴ホール
【タイトル】非天然の生命でもいいんじゃない?
英訳:Creation of artificial life systems is a worthwhile pursuit, isn't it?October 11, 17:00-18:30
Department colloquium by Hiroyuki Noji.
(School of Engineering, The University of Tokyo.)
最近、私は「生命とは自然による分子工学」と考えています。今まで、ATP合成酵素をモデル分子として解析的・分析的手法を私なりに徹底的に行ってきました。このエネルギー変換装置のメカニズムを知れば知るほど、今の人間では到底思いつけない分子工学だと感嘆させられます。その一方で、「なんで自然はこう創ったかな?別の方法もあったのでは?」と思うことも度々あります。また、これまで1分子計測を筆頭に分析的手法で研究してきましたが、「対象を解像度高く見ることは必須だけど、それだけでは理解に達しないのでは?」という思いも強めてきました。このような背景で、分析的研究を補完する方向として「創る」研究に着手しています。まずは、天然にはない性能を持つATP合成酵素の開発、いわばATP合成酵素の魔改造を目標にした研究に取り組んでいます。また、これと思いを同じくする形で「こういう細胞もありなんじゃない?」という発想で私達なりの人工細胞創出にも取り組んでいます。まだちょっと早いですが、今の私たちの成果をみなさんと共有したいと思います。
第146回 コロキウム
【日 時】2024年11月5日(火)17:00-18:30
【講演者】Marc Mézard 氏(Bocconi University)
【場 所】小柴ホール
【タイトル】From spin glasses to machine learningNovember 5, 17:00-18:30
Department colloquium by Marc Mézard.
(Department of Computing Sciences,Bocconi University.)
In the last fifty years, the construction of a new branch of statistical physics dealing with strongly disordered systems has found many applications in various fields, from computer science to information theory and biology. Four main obstacles were overcome to develop a coherent theory: handle a statistical ensemble of samples, analyze quantitatively the microscopic disorder, explore complex energy landscapes, understand their link to dynamical behaviors. This talk will describe some of these achievements. It will also argue that, in order to apply these ideas to the important field of machine learning, one needs a better understanding of complex systems with structured disorder.
第147回 コロキウム
【日時】2024年12月13日(金)17:00-18:30
【講演者】初田 哲男 氏(理化学研究所 iTHEMS,プログラムディレクター)
【場 所】理学部4号館1220号室
【タイトル】クォークから中性子星へ:基礎物理学の挑戦December 13,17:00-18:30
Department colloquium by Tetsuo Hatsuda.
(RIKEN iTHEMS)
観測されている物質の最小単位は「クォーク」と呼ばれる素粒子であることが知られています。しかし、これらクォークがどのように陽子や中性子、原子核を形成するのかについての本質的理解はいまだ得られていません。一方で、過去半世紀にわたり、太陽と同程度の質量を持ちながら半径がわずか10kmほどの「巨大な原子核」とも言える中性子星が数多く観測され、クォークの視点から中性子星の内部構造を理解することが、素粒子物理学、原子核核物理学、宇宙物理学における重要な課題の一つになっています。2017年には、2つの中性子星が合体してブラックホールを形成し重力波を放出する現象が観測され、将来的にはより高精度な重力波観測により中性子星のクォーク構造に関する新たな洞察が得られる可能性があります。本講演では、クォークから中性子星やブラックホールに至る、ミクロとマクロの現象を統一的に理解しようとする現代物理学の課題に関して、講演者の最近の研究を交えて解説します。
第148回 コロキウム(終了しました)
【日時】2025年1月24日(⾦)17:00-18:30
【講演者】清⽔ 明 氏(東京大学理学系研究科附属 フォトンサイエンス研究機構)
【場 所】理学部4号館1220号室
【タイトル】統計力学+熱力学+量子論の体系化の試みJanuary 24, 17:00-18:30
Department colloquium by Akira Shimizu .
(Institute for Photon Science and Technology, the University of Tokyo.)
統計力学・熱力学・量子論は,これらを否定する実験事実がひとつも見つかっていない極めて強力な理論であり,相対論などとともに,物理学の支柱を成している.したがって,これらの理論の共通の適用範囲にある物理系(たとえば平衡状態にあるマクロ系)に対しては,どの理論も(実際に計算できるかを別にすれば)適用できて,整合しているはずである.
ところが,それぞれの理論の基本原理を書き下そうとすると,文献によって大きくバラついており,かなり曖昧である.たとえば,もっとも基本的な事項のひとつである熱平衡状態の定義ですら,文献によって異なっているのが実状である.ましてや理論の間の整合性となると,さらに心許ない.たとえば,「U,V,Nの関数としてエントロピーを表した式S(U,V,N)は常に連続的微分可能である」という(温度の存在と等価な)熱力学の基本原理は,統計力学では普遍的には示すことができておらず,本当に物理学の基本原理に含めるべきなのか解っていない.(もしもこれを満たさない物質を実験的に発見したら,全ての熱力学の教科書を書き換える,ノーベル賞に値する発見だ).
このように,物理学の支柱を成す理論である統計力学・熱力学・量子論は,その基本原理も十分には明確化されておらず,ましてや整合性には多くの未解決問題がある.そのような状況を打開する試みは古くから成されてきたが,とくに21世紀になってから,実験と数学の発展に支えられて,研究が進展しつつある.その中から,講演者とその共同研究者が携わってきて,その集大成を「…の基礎」と題する一連の教科書(「マクロ系の非平衡統計力学」という未刊本も含む)にまとめつつある事項から,いくつか選んでお話ししたい.