スピンと軌道の「量子もつれ」の巨視的効果の発見と、その制御に成功
研究成果 2022/12/05
量子コンピュータや量子センサなど、新しい量子技術の開発には巨視的に現れる量子もつれの効果の観測とその制御が鍵となります。さらなる技術開発に向けて、その操作の簡便性から磁性体での巨視的量子もつれの観測と制御の実現が望まれていました。東京大学理学系研究科物理学専攻 唐楠特任研究員(研究当時)、ミンシゥエンフゥ特任研究員、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 酒井明人講師と東京大学大学院理学系研究科物理学専攻・物性研究所およびトランススケール量子科学国際連携究機構の中辻知教授は、東京大学大学院新領域創成科学研究科の木村健太助教、および、米ジョンズホプキンズ大学、独マックスプランク研究所、独ドレスデン高磁場研究所、印Tata Institute of Fundamental Research、名古屋大学らとの国際共同研究により、磁性イオンのプラセオジム(Pr)がパイロクロア格子を成す酸化物Pr2Zr2O7(図1)において、スピンと軌道の量子もつれによりスピン軌道ダイナミクスが極低温まで生き残り、トポロジカルな磁性状態である量子スピンアイス状態が実現していることを確認しました。さらに、その量子もつれの巨視的効果を磁場で制御するメタ磁性転移の観測にも成功しました。
固体中のスピンや軌道は、高温では全く無秩序に振るまうのに対して、低温では一定のパターン(=長距離秩序)を形成することが知られています。しかし、量子もつれ(スピンと軌道が両方揺らぐ特異な液体状態)を巨視的に観測するには、上記のような秩序を全て抑える条件を満たす物質を見つけた上で、さらに、その極めて純良な試料と精密な極低温測定を行う必要があります。そのため、その実現は長らく不可能であると考えられていました。
当研究グループは、高純度のPr2Zr2O7単結晶の合成に初めて成功し、精密な極低温熱力学測定を幅広く行いました。さらに理論面の検証を踏まえ、スピンと軌道の量子もつれによるスピン軌道ダイナミクスが量子スピンアイス状態を安定化させていることを見出しました。この量子スピンアイス状態は、高エネルギー物理分野で探索が続いている電気モノポール、磁気モノポールと等価な準粒子が固体の中で安定化しているトポロジカルに新しい状態であり、量子もつれの実験的制御を調べるうえで恰好の舞台となります。本研究は今後、スピン軌道液体状態を実現する物質設計の指針になることや、新規な励起の発見に貢献すると期待されています。
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